隣人

ヒマなんで自宅のドアに絵を描いてたら
隣人が出てきて声をかけてきた

「百々君、百々君」

ガンダムおたくの浪人生だ
少なくとも去年から浪人生だった気がすっから
年は２つ３つ上だろうか
表札で名字が「秋山」なのは知っているが
別にそう呼んだ事は無ぇし、下の名前も知らん

手を止めて、そのツラを見ると
なにやらテカテカモジモジしてやがる。きめぇ

「百々君ってさ、沢山刺青入れてるよね」
「ん？まぁな」
「そういうの、詳しいの？」
「あー…、別に。知り合いに勝手に入れられた様なモンだからよくわかんねぇ。それもだいぶ昔だしな」
「そうなんだー…」
「……」

ふーん、ふむふむ…とかって
いかにも突っ込んで欲しそうなオーラがウゼェけど
まぁ、ヒマだしな…。仕方ねぇ、聞いてやっか

「…どーしたンすか」
「あっ、いやいや、別に～。ただね…」
「何よ」
「うーんと、ほら、彼女の名前とかをさ、刺青で彫ってみたりしようかな、って…」

ふいた

「あっ、なんだよブフーッって！失礼だな君は！」
「ブフーだよ！ブフーとも言うよ！何考えてンだよアンタ！」
「えーっ、あるでしょそういうの！そんなに変かな…」
「変っつか…だってよ、刺青って一生取れねぇンだぜ？」
「だから彫る意味があるんじゃないか」
「別れたらどうすンだとか、考えねぇンすか」
「ありえないさ！だって僕は彼女を一生愛し続けるって決めたんだから！」

う、うぜぇ…

「……」
「な、なんだよ、そのゲゲーッって顔は…」
「…だって……、いや、アンタの彼女ブサイクだろ…」
「無礼だな、ブサイクじゃないよ！君の彼女のレベルがおかしいだけだって！」
「う、うむ…それは…」
「照れるんじゃないよ、気持ち悪いな。それに君を褒めた訳じゃないからね」
「う、うるせぇな」

「…痛いの？」
「あ？何が」
「だから、刺青彫るの」
「んー、そりゃ、それなりにぁ痛かったけど…いや、つか、マジやるンすか」
「駄目？」
「や、勝手にすりゃいいけど…、でも…やめといた方がよくね？」
「どうして？」
「…ホラ、親とか…怒るかもよ」
「そこは、バレない様に目立たないとこに入れるからさ。内太股とか」
「内太股…」
「アレする時に見えていいでしょ」
「……っ！バカか！」
「あはは！百々君、顔赤いよー」
「画を想像してサムくなってるだけだ！」
「無礼だなー。だいたいにして『親が怒るかも』とか、ヤンキーが言う事じゃないよね」
「う、うるせぇな！お、親はともかくとしてもよ、だから…」
「うん？」
「別れたらどうすンだよって」
「だからー、それは無いって！」
「なんで無いって言えンすか。アンタが無くても、向こうが愛想尽かすかも…とかよ」
「……な、無い！　…と思う」
「なんでよ」
「なんでって…、…別に、彼女、僕に不満があるとか、言ってこないし」
「そんなモンはワザワザ口にぁ出さねぇだろ」
「…何イライラしてるんだよ君は」

え、イライラしてるか、俺
……してるな

「…べ、別にイライラなんてしてねぇスよ。…とにかく、刺青はあんまよくねぇンじゃね」
「そうかなぁ」
「アンタみてぇなフツーの外見のヤツがいきなり刺青とか、ヒかれるって」
「かもね…。いいさ。刺青なんて入れなくても、僕の彼女への愛は変わらないよ」
「あぁ、そう…」
「あはは…。あぁ、それよりさ百々君、新しいガンプラ買ったけど見る？」
「勉強しろよ！」
「息抜きも必要だってば。見ないならいいけどー」
「いや、見る」
「結局見たいんじゃないか。まぁ、いいや。おいで。飲み物、お茶しかないけどいいよね？」